御曹司の蜜愛は溺れるほど甘い~どうしても、恋だと知りたくない。~
(始さん、もう寝ちゃったんだ……健康的だな……)
暗闇の中で聞こえる、始の規則正しい寝息と、体温に包まれていると、自分はこの世界にただひとりきりではなかったのだと、不思議な気分になる。
早穂子の夜は十年ほど前からずっと孤独だった。
ベッドの中で変わりゆく窓の外の景色を眺める夜、無性に大きな声で叫びたい日もあった。
大学入学を機に夜の街に繰り出したこともあったが、女一人だと煩わしいことが多すぎて、結局ひとりの部屋に戻ってきていた。
なにが不満だったわけじゃない。
友達だって人並みにいたし、異性と付き合ってもみたが、ただ漠然と、自分の周りに分厚い不透明な膜のようなものがあって、周囲に馴染めないだけだった。
(きっと私……孤独だったんだ)
けれど今は、違う。
好きな人が側にいる。
よりそうだけで心がほどけて、まるで温かい毛布に包まれているような、優しい気分になれる。
(いつ終わるかもわからないけれど……一日でも長く……この夢が続きますように)
早穂子は始の寝息に耳を傾けながら幸せに浸り、目を閉じた。