側婚

「福永さん…」

「はい」

「どうして…私と結婚しようと思ったんですか?」

私に恋愛感情がなくて、私も恋愛感情を持ってないって分かってたのに、何故…。

「それは、紅野さんが好きだからです。
あっ、もちろん恋愛感情では…」

「分かってます」

さっき言ったばかりじゃないですか!!

覚えてます!!!

「私は…人として好きです。
紅野 結(むすび)さんという人が好きです」

「私の下の名前…知ってるんですか?」

確か、福永さんと初めて会った時に私…。

『初めまして。
紅野です』

下の名前は言ってないのに…。

「知ってるに決まってるじゃないですか。
私は常連客ですよ」

「…ああ!!」

『結ちゃん、オーダーお願い』

『結、出来たぞ!!!』

長倉さん夫妻が私を下の名前で呼んでるからか。

「私も、福永さんの下の名前知ってますよ。
平太(へいた)さんですよね?」

「はい。
覚えてくれてるんですね」

福永さんが嬉しそうに笑う。

「覚えては…なかったです。
今日…福永さんに連絡する時に名刺を見て…」

『へぇ…。
“平太”って名前なんだ…』

初めて会った時に福永さんは下の名前まで言っていたはずなんだけど、私はすっかり忘れていました。

「ああ…なるほど…」

「…すいません」

「紅野さんって…。
本当に正直者ですね」

「いや…私だって少しくらいは嘘つきたいですよ。
必要な時だってありますし…」

「でも、私は正直者の紅野さんだから。
信用出来る人だと思いましたよ。

それも結婚しようと思った理由の一つです」
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