紡ぎ会い、紡ぎ合う。
あれからいくつもの朝と夜が流れ、私達は大学を卒業し社会人になった。
彼の方は小説家としてうまくやっているようで、年に何度か新刊を出しては雑誌やテレビで話題にされている。一方、私は派遣社員としてテレフォンアポインターの仕事をしている。今年で3年目だ。
あれから何人かの人と付き合ったけど、彼ほど胸を震わせる相手とは出会えず、そのうち恋愛なんてどうでもいいやと思うようになり、今は一人気ままに生活している。友達と海外旅行したりたまに集まって朝まで馬鹿騒ぎをするのがいい気分転換になっている。
大丈夫。こうやっていけば別に独りでも生きていけなくはない。
「恋なんて一過性の食べられないマカロンみたいなものでしょ。食べたらおいしいけど食べなくてもこれといって困ることはない」
「えー!! 先輩ガチで言ってます? それは女としてマズくないですか!? この前の合コンでも一番人気の人に連絡先訊かれてたのに適当にかわしてサッサと一人で帰っちゃうし。もったいないですよ~」
だって、おいしいもの食べたかっただけだし。と、心の中で言い返す。この子は最近派遣されたばかりの二歳下の子で、恋愛に積極的な傾向。私とは真逆だ。
「これ読んでみて下さい! 絶対ドキドキするし恋したくなるはずですからっ」
興奮気味な後輩に渡されたのはベッタベタな恋愛小説だった。冒頭の数ページで読むのが恥ずかしくなってしまった。恋愛履歴の更新が鈍っているせいで恋愛免疫力まで下がってしまったのかもしれない。
仕事帰り、久しぶりに駅前の大型書店に立ち寄った。彼のことを思い出すのが寂しくて最近はすっかり足が遠ざかっていたけど、こうして来てみたら思っていたよりワクワクした。