風薫る
遠目から見ても大きかったけれど、やっぱり背が高い。


驚きで涙なんて引っ込んでしまった。どうしたらいいのか分からなくて、とりあえず挨拶してみる。


「こ、こんにちは」

「こんにちは」


穏和で深みのある声が、すとんと落ちてきた。


微笑みが高校生には似つかわしくないくらいに落ち着いている。


お辞儀の角度も綺麗で礼儀正しくて、穏やかで大人っぽい人だなあと思った。


でも、どうして黒瀬君が後ろにいるんだろう。


……ちょうど借りたい本があって取りに来たら、私がいたのかな。

も、もしかしてお邪魔かな。


「あの」

「はい」


さらり、黒瀬という名字の通りに漆黒の髪を揺らしながら、黒瀬君が私に呼びかけた。


「読みたい本、どれですか?」

「いえ、私のことはお気になさらず」


優しい。私と借りる本が重ならないようにわざわざ確認してくれるなんて。

普通は聞かずに持ってくよ。

と、思っていると、黒瀬君は困惑気味。


「いや、そうではなくて」

「?」


今度は私が当惑する番だった。


頭にクエスチョンマークを浮かべて、私は、自分とは遥かに違う高さにある黒瀬君の顔を見上げた。


「手が届かないようだったので」

「……はい」


一拍置いて。
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