風薫る
階段でやっぱり見られつつ下駄箱で待ち合わせをして、正面玄関でも見られつつ校門を抜けて、ようやく一息つける。


黒瀬君の教えの通り、にこにこ笑って乗り切っているけれど、見られるのはやっぱり疲れる。


校門から離れてしまえば黒瀬君と二人だけになれるから、下校途中はとても楽だ。


黒瀬君と話が合わないはずがないし、弾まないはずもないし。


あの作家さんが新刊を出しただとか、この作家さんは面白いだとか、会話が途切れない。


話しながらそうっと茜色の空を見上げた。


夕焼けはあの本を思い出すから好きになった。たまに見かけると見上げるようになった。


話の後半に素敵な場面があって、装丁はそこに合わせてか、美しい夕間暮れで。


鮮やかなオレンジと赤が混ざり合い、濃淡を変え色を変え、流れる雲と共に空に溶け込む、とても綺麗な写真。


今日の空はその写真にすごく似ていた。


オレンジが綺麗だ。


ちらりと盗み見ると黒瀬君も空を仰いでいた。


黒瀬君なら同じことを思ってくれるはずで、黒瀬君ならこれに答えられるはず。


「この空の色は」

「君の色だよ」


思った通りすぐに返って来た台詞。

嬉しそうな瞳。


黒瀬君はこの作家さんが好きだと言っていたのを、私も好きだから覚えていた。


記憶は正しかったらしい。
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