風薫る
黒瀬君はベタ甘恋愛ものをあまり好まない。


でも、話の軸が恋愛ものではないだとか、淡いものだとか、たまに出てくるだけだとか、そういう類いの作品なら読む。


この台詞を抜粋すると恋愛色が強いけれど、実際は温かな交流がテーマになっている。


主人公の女の子が周りと上手くいかなくて戸惑うのを近所のお兄さんが励ます、という場面。


まだ小学生の女の子を、少し大人びているからいろいろ考えてみてもごちゃごちゃ整理が付かない中で、大人が少女を助けつつ伸ばしていく感動の物語なのだ。


赤に染まる時間(とき)。


題名はやっぱりこの場面から。


優しいお兄さんが最高に格好いい、それはもう素敵な方なので、読者の心を鷲掴みにして離してくれない。


かく言う私もお兄さんのファン。


もちろん、他にも味のあるおじいさんとかおばちゃんとか、登場人物はいるけれど。


「ね、あの場面思い出すよね。あそこすごくいいよね!」


分かってくれた黒瀬君に笑顔になる。


言われてみたいなあ。


そんな本音がもれたのは、多分私の癖だった。
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