風薫る
「あー……確かに。でも、俺たちでやるのは難しいと思うよ」


この距離だと聞こえるみたいで、黒瀬君が生真面目に相槌を打ってくれた。


そうなんだよね。問題はそこなんだよ。


茜、というのが女の子の名前で、由来は夕焼けの空から。


ということは、私たちだととても難しい。


「黒瀬はつまり黒だから、ものがありすぎてあんまり決まらないし、紘は以ての外だからなあ……」


黒瀬君が残念そうに言うけれど、私はもっと可能性がないと思うのだけれど。


黒はいい。自分だけの意味を込めたらたくさん考えられる。


「私は木戸だから、木、木……茶色?」


何だろうそれは。


黒瀬君も微妙な顔になった。


色が名前に入っていないので考えにくいし、たとえものがあってもいい意味が私には思い付けないし。


下は彩香だからもっとないよね。


考え込む私と黒瀬君。


うーん、木といえば私にとっては本棚、本棚といえば図書室で。


「……図書室かな」


まるで私の頭の中を読んだみたいに黒瀬君が言った。


「図書室は木戸さんがいるところで、通いたいところで、俺にとって毎日木戸さんを待っていたい場所だよ」


だから木戸さんの場所だ。
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