風薫る
袖を掴んだ私の手を捕まえる。


引かれた反動で倒れた身体を支えるように抱きとめた腕が。


痛くないように、けれど抱きしめられていると分かるくらいに緩く私を閉じ込める黒瀬君の手が。


熱かった。


「黒瀬く」

「駄目。見ないで」


嗄れた囁きが私を制止した。上げようとした頭は片手で少し押さえられる。


「今すっごい真っ赤だから、見ないで」


上から落とされる、かすかに照れた声を前にも聞いた。


優しく頭に触れた大きな手は、迷いをもってまた背中に回る。


「黒瀬君」

「見な、」

「見ないよ。そうじゃなくてね」


黒瀬君は私を何だと思っているんだ。頼まれたら嫌がることはしないのに。


珍しく読み間違ったのは……焦っているから、かな。


だとしたら、多分。これで合っている。


「黒瀬君」

「……うん」


緊張でだろうか、黒瀬君の腕が強張ったのが分かった。


「……いいよ」
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