風薫る
「待って待って待って……!」


再び全力で焦る私。


……えっと、ちょっと落ち着こう私。


混乱を抑えるべく深呼吸をする。大きく二回、しっかりと。


よし。落ち着いた。


「あの、ね」

「うん」

「普通は、隣って言ったら家族はあんまりないんじゃないかなあと思うよ。家族は隣にいる人っていうより家族でしょ」


客観的に、客観的にと心中唱えながら、できるだけゆっくり考えて言う。


「そう、だね」


苦笑したまま黒瀬君が頷いた。


「友達は女子ばかりだし」


男の子は話すけれど、そんなに仲良くなれないのが常だった。


連絡事項が精々。


私が読書好きすぎるせいで合うような話題もなくて、笑っていることしかできない。


黒瀬君は例外中の例外、特別枠。


「うん」


黒瀬君は話すときは必ず目を見てくれるから、表情が暗くてもちゃんと見える。


ああ素敵だなあ、と気づいたそれにふと思いながら、ゆっくり考え考え続けた。


「彼氏、は」


言い淀んだのは、言ったら笑われないかと心配になったから。
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