風薫る
「……うん」


瑞穂は大丈夫だと励ましてくれるけれど。

黒瀬君はそんなことで笑わない人だけれど。


クラスメイトが、高校生になったら普通は彼氏ができる、彼氏がいるって言っていた。


彼氏が欲しくないわけではくて、いたらきっと楽しいんだろうなと思うけれど。


読書好きの私を好きになってくれるなんて、多分読書好きな人か、よほど物好きな人かで。


そんな奇特な人には、今まで出会ったことがない。


私の周りには、学年が上がるにつれて読書をしない人が増えていったから。


だから初めて図書室に寄ったとき、本棚の隅に黒瀬君を見つけて、とても驚いたし嬉しかったし、何か感慨が込み上げた。


読書が好きな人がこんなに身近にいたんだなって。

こんなに身近に、こんなに読書が好きな人がいるんだなって。


いつか話してみたかった男の子に、私は今よく分からない言い訳をしている。


「彼氏はいたことなんてないの。いない歴十六年」


意を決して告げても笑われなかった。


「そっか」


変わらない普段通りの態度。


……うーん。


なんでこんなにも言い訳じみた弁解をしているのか、今さらながら分からなくなってきた。
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