風薫る
「避けてって言ったのに」

「いや、避けないよ。助けるよ。倒れそうな人を放っておいたら、俺すごい駄目なやつじゃんか」


う、確かに。


隣を歩いていて一緒に話していた人が倒れかけたのに何もしなかったら、傍目には黒瀬君が極悪非道で冷徹なように見えてしまいかねない。


なるべく早く助けて、もし転んじゃったら起きるの手伝って、大丈夫? とか怪我してない? とか聞くよね。そうだよね。


「避けてって言われてびっくりしたし悲しかったんだからね、俺」

「わああ、違くてね、そうじゃないんだけれど、あの、ごめんね……!」


そうか。


まるで黒瀬君は極悪非道人だって思っているみたいに聞こえるし、頼りにならないから助けてって言わない感じもするし、実際に避けてあのまま地面に激突したら怪我するから、そうしたらどのみち心配してくれるし。


「そこは避けてじゃなくて助けて、でしょ」


私が落ち着いたのを認めて、慎重にゆっくり離れた黒瀬君の声が拗ねている。


「木戸さんが言ってくれないと助けにくいんだからね、俺。頑張ったんだからね」
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