風薫る
「っ」


頑張ったんだからね、だなんて、黒瀬君は全く、なんてことを言うのか。


……照れる。照れてしまう。


最近、黒瀬君に私ばかりどきどきしている。


そうだ、名案を思いついた。


どきどきしすぎなら、ちょっとだけ離れておけばいいんじゃないかな。


何回も助けてもらっているのは一旦脇に置いておいて、とりあえずの意思表明をした。


「私は大丈夫だし気をつけるし、放っておいてもいいんだよ、黒瀬君」

「やだ。放っておかない。木戸さんが心配で目が離せません」


やっぱり拗ねた声色で即答された。


やだ、って何だか少し子どもっぽくなっている。


と、いうか。心配で、目が離せない?


「あれ、今言外にひどいことを言われた気がするよ……!?」

「違う違う、ひどい意味じゃないよ」


こう、ものすごく子ども扱いされたのかと思って落ち込んだ私に、黒瀬君が笑った。


「本当に?」


でもやっぱり気になって、拗ねて見上げたら。


「本当に。心配なのは木戸さんが可愛いからって言ったら、信じる?」

「えっ」
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