風薫る
どうしたの黒瀬君。
私はちゃんとずっと隣にいたはずなんだけれど、もしかして気づかないうちにどこか打ったのかな。
可愛いだなんて、いつもは言わないのに。
信じられない事態に百面相を繰り広げていたら、信じてないよねえ、と黒瀬君が呟いた。
「何ならもう一度言おうか、木戸さんはか」
「ごめん私が間違ってたみたい!」
ごめんごめん、と、全力で拒否する。
手をぶんぶん振って、飛び退いて、後退して、必死に目をつぶった。
これ以上何か黒瀬君に言われたら、私の心臓がもたない。
心外だ、とか言わせてよ、とか何とか聞こえた気がしないでもないけれど、言ったら駄目だよ。
そう、なんだけれど。言ったら駄目なんだけれど。
某猿のごとく固く耳を塞ぎ、目を閉じ、口を結ぶ私の手にそっと自分の手を添えた黒瀬君が、彼の右手ごと引いてしまった。
これじゃあ耳を塞げない。待って待って、わああ待って……!
「……そんなところも可愛いよ、木戸さん」
「っ!」
声にならない悲鳴が出た。
どうしたんだろう。黒瀬君はこの頃、やたらと甘ったるい。
私はちゃんとずっと隣にいたはずなんだけれど、もしかして気づかないうちにどこか打ったのかな。
可愛いだなんて、いつもは言わないのに。
信じられない事態に百面相を繰り広げていたら、信じてないよねえ、と黒瀬君が呟いた。
「何ならもう一度言おうか、木戸さんはか」
「ごめん私が間違ってたみたい!」
ごめんごめん、と、全力で拒否する。
手をぶんぶん振って、飛び退いて、後退して、必死に目をつぶった。
これ以上何か黒瀬君に言われたら、私の心臓がもたない。
心外だ、とか言わせてよ、とか何とか聞こえた気がしないでもないけれど、言ったら駄目だよ。
そう、なんだけれど。言ったら駄目なんだけれど。
某猿のごとく固く耳を塞ぎ、目を閉じ、口を結ぶ私の手にそっと自分の手を添えた黒瀬君が、彼の右手ごと引いてしまった。
これじゃあ耳を塞げない。待って待って、わああ待って……!
「……そんなところも可愛いよ、木戸さん」
「っ!」
声にならない悲鳴が出た。
どうしたんだろう。黒瀬君はこの頃、やたらと甘ったるい。