風薫る
「駄目だよ!」


力説する。


いけないよ、黒瀬君。無闇に愛想を振りまくのはいけないよ。


確実に混乱を招くからやめて欲しいです。


そう力一杯説明したのに、安心して、とにこやかに笑った黒瀬君に、全然安心できない。


「大丈夫だよ。木戸さんにしか言わないから」


だから、なんでそういうことを言うかなあ……!


砂糖が凶器になるのを知った瞬間であった。


「私にも言わなくていいよ……!」


せめて真剣な顔で言わないで欲しい。やめて、威力が倍増するから。本当に。


……今日の黒瀬君は変だよ。

少女漫画みたいなことばかり言っている。


どうしたのかな。なんで突然言い出したんだろう。


うーん、と黒瀬君について考えを巡らせていると、ふいにクラクションが鳴った。危ない危ない。


三度目の正直ってよく言うけれど、今日の私は絶不調らしい。四度目の正直すら怪しい。


きっと、角砂糖を十個も二十個も携帯しているような、特別に甘ったるい今日の黒瀬君に毒されたに違いない。


混ぜるな危険。

黒瀬君とお砂糖は相乗効果がおかしい。


落ち着こう。落ち着きたい。頑張れ私。


ぐるぐる堂々巡りするのを何とかしたくて、ゆっくり深呼吸をしていたら。


「木戸さん」

「うん?」


呼びかけに顔を上げた私の手を、黒瀬君がそっとさらった。
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