風薫る
できるものならやり直したいのだけれど、いきなりの話題を変えたら不自然極まりないよね。


仕方ない。このまま続けよう……。


泣く泣く次の話題を探る。


もういっそのこと、思ったことを言ってしまうのがいいかもしれない。


変に考えて話すと、さっきみたいに間違ったときに余計に慌てる。


うん。そうだ、そうしよう。足掻くのは諦めよう。


ええと、思ったこと。


「私、冷え症だから、こういう寒い日って困るんだよね」


自分の話ばかりで申し訳ないのだけれど、何とか成功したらしい。


黒瀬君が柔らかく微笑む。


「俺は人間湯たんぽってこと?」


斬新なツッコミ。

湯たんぽって、湯たんぽって。


ふふふ、と笑いが込み上げる。


「湯たんぽっていうよりはカイロかなあ」


ちょうどいい大きさで、歩くときに困らない感じがホッカイロ。


黒瀬君が繋いだ手先を見遣って、そっか、と呟いて。


え。ええと。


「あの、黒瀬君」


私の呼びかけから逃げるように横を向いた黒瀬君が、きゅ、ともう一度手を握る。


「……俺、カイロなんでしょ」


目線を落とした黒瀬君が、耳元で囁いた。
< 121 / 281 >

この作品をシェア

pagetop