風薫る
「あ、雨だ」


かすかに聞こえた雨音にふと顔を上げて外を見てみると、しとしと雨が降っていた。


小さな呟きに、全然気づいていなかったらしい黒瀬君が目を見開いた。


「え」


窓の外には一面、後ろに透ける空の色が青だと分かるくらいに薄い、淡い灰色の雨雲が垂れ込めている。


「うわ、俺傘持ってきてないのに」


「どうしよう、走るかな……」

「えっ」


頭を抱えた黒瀬君がそんなことを言ったけれど、走って帰ってもずぶ濡れになってしまうと思う。


私たちは、放課後、図書室で会う約束をしている。


初めはただ一緒に読書をするだけだったそれに、一緒に帰るのも含まれ始めたのは、つい最近のこと。


今日も一緒に帰るつもりだった。

一緒に帰りたかった。


だから、ここで何か解決策を提案しないで走らせてしまったら、私は極悪人に成り下がってしまう。


黒瀬君に会いにくくなる。


……会えないかもしれないなんて。そんなのは、嫌だ。
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