風薫る
慌てて考える。


ええと、案一。

私は傘を持ってきているので、黒瀬君と一緒に入って、途中まで、もしくは家の前まで送っていく。


……な、ないない。


それってあれだよね、相合傘っていうものだよね。


無理だ、私は絶対挙動不審になる。


……いや、だって相合傘だよ、ならない方がおかしいよ。


無理無理、とすぐに却下した私を、黒瀬君が呼んだ。


「木戸さん木戸さん」


期待がにじむ声が今は重い。

嫌な予感がする。


「う、うん」


俯いた顔をそっと上げると、黒瀬君はやっぱり穏やかに微笑んでいて、その目は少しの期待をのせていた。


「傘持ってる?」


なんとか頷く。


「あの、さ」

「……うん」


前置きまで怪しい。


黒瀬君は基本、迷うなら始めから何も言わない主義だって、そんなことはもう知っている。

分かるくらいには話をしている。


木戸さん、と黒瀬君がもう一度呼んだ。


多分、お互いに距離を測りかねていた。
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