風薫る
ぐったり伏せた背中を再びつついてきたけど嫌、ともう一度断って、ぶーぶー文句を言う瑞穂の手にクッキーを押しつけた。


人はこれを賄賂と言う。


でも、構ってはいられない。

私はあまり、黒瀬君とのことを進んで話したくなかった。


……話してもいいのか、よく分からなかったから。


黒瀬君と私のもっぱらの会話は、本のこと。


読んだ本って、その人の内面をすごく表している。

おすすめされて読んだものじゃなくて自分で選んだものなら、なおさら。


だから、結構な個人情報になり得るんじゃないかな。


もちろんおすすめしたものはいいけれど、

その他のただ何となく手に取った本とか、必要に駆られて買わざるを得なかった本とかは私だったらあんまり人に教えないで欲しいなあと思うし、

そういう個人情報の観点から図書館では閲覧者情報が非公開で、仮に調べるにしても司書さんが調べるのだし、

黒瀬君は借りた本にも買った本にも一つ一つブックカバーまでかけているんだから、あまり周囲に好みの本を——つまりは、好みを知られたくないんじゃないかなあ。


私には教えてくれるけれど、それは私もおすすめしたり好きな作者さんを挙げたりしているからだろう。
< 136 / 281 >

この作品をシェア

pagetop