風薫る
瑞穂が珍しく考え込んでいる。


黒瀬君と間違えたことを怒っているのかと思ったけれど、違うと言う。


間違えたことこそが問題なのだそうだ。黒瀬君がからかわれるかもしれない、のだとか。


それは嫌だった。


私は気にしなければいいけれど、黒瀬君の迷惑になるのは遠慮したい。


「分かった。気をつけるね」


神妙に頷く。


私はあんまりそういう方向に頭が回らないので、こんなとき瑞穂はとても頼りになる。


ありがとうと言うと、お礼はクッキーの追加でいいよ、なんて瑞穂がふざけた。


「分かった。はい」

「えっ、いや」


箱ごと残りを押しつけたら慌てられたけれど、ぐいぐい押しつける。


「いいからいいから」

「いやいいよ、大丈夫だよ!」


ふざけただけだって、と眉を下げる瑞穂に、ふざけただけなのは分かってるよ、と笑った。


「分かるけれど。元々あげるつもりでたくさん買っちゃったの。もらってよ、ね?」

「……うん。じゃあもらう。ありがとう」

「いいえー」


迷った末に受け取って、予鈴とともに去っていく瑞穂は、照れ隠しが下手で。


いつも、そう。感謝されるとちょっと不器用になる友人が私は好きだ。


ありがとう、とこっそりもう一度呟いた。
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