風薫る
さっき見かけたとき、黒瀬君はすでに自分のぶんを借り終えて、本を鞄に詰めていた。


普段は小説しか借りない黒瀬君が、自然について、とかいう本を借りる確率はほとんどない。


新刊の棚の上二段は、論説文が大部分を占める。


空気、昆虫、草花、挨拶、名前、現代など話題は様々だ。おそらく先生方のリクエストで購入したんだろう。


黒瀬君とは基本、授業担当の先生が同じだったはず。


最近、これらについてレポートを書く課題は出ていない。


『自分のぶんを取るついで』。


その理由は背が低い私を気遣ったことが分かりやすすぎた、なんて言ったら深読みしてるかな。

優しい嘘に甘えるべき、なのかな。


分からなくて、困って、黙り込むと。


「それに」


黒瀬君がそっと笑った。少しからかう色が入った声だった。


「今日はまとめて借りなくていいんですか?」

「え?」


それって――それってどういう、
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