風薫る
「ど、く、しょ、で三回じゃなくて、ど、く、し、よで四回かなあと思って……」


ゆっくりと切りながら発音されて、なるほど、と合点がいった。


どうやら、小さい字の処理で悩んでいたらしい。


よくある小さい文字の疑問は、俺の周りでは数えないと規定されていたけど、木戸さんが同じだとは限らない。


「それだとほら、図書室も丸になるでしょ。そうしたら図書室がいいかなあ」

「なるねえ……」


ぽつぽつと木戸さんが話すのを聞いて、そっか、と俺は納得していた。


やんわり言う木戸さんに珍しく、はっきりと提案を退け続けていてどこか違和感があった。


どうしたのかな、とは思っていたんだけど。


リズムを決めようと思いついた時点で、何も候補がないのは提案者としてどうなんだ、と思案してみたらしい。


図書室を真っ先に候補として考えたけど、字数の関係で困っていたから言わなかったようで。


木戸さんはこういう人だ。

密かに優しい人なのだ。


だから俺は木戸さんと話すのが嫌じゃなかった。


いつも微笑んでいて、ときたまその笑みの下に隠してしまう気配りの仕方が、素敵だと思うから。
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