風薫る
「あれだ、まとまりで分けるのはどうかな」


提案に木戸さんは首を傾げた。


どういうこと? と言われて、説明しようにもいい例が思いつかなかったので、名前を拝借。


「かなり無理矢理なんだけど、き、ど、さん、で三つのまとまりってことにする」


とか、……どうですか。


敬語になったのは、言ってから図書室で構わなかったのに気づいたから。


というか俺の名前でよかったんじゃ……!? なんで思い浮かばなかった、俺……!


苦い沈黙を悔しくも正確に理解した木戸さんが、悪戯する目をした。からかう気満々だ。


「くー、ろせ、くん」


くそう、楽しそうだなあ。


「やめて、き、ど、さん」


こうなれば意地である。


木戸さんは俺の名前を呼ぶ場合、くー、ろせ、くん、と区切ることが分かったのでそれは新発見だった。


キラキラした目に、わざと意地悪な分け方で呼ばれるんだろうなとは覚悟していたんだけど、黒、瀬、君だとばかり思っていた。


さすが木戸さん。木戸さん節は楽しい。


木戸さんはいまだくすくす笑っている。


気に入ったのは分かるんだけど、俺の精神に多大な影響を及ぼすからやめてくれないだろうか。


「木戸さん」
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