風薫る




よく図書室で見かける、背の小さな女子。


新書のコーナーから移動しつつ、ふわりと彼女が俺を呼ぶ。


「黒瀬君、ごめん、あれ……」


木戸さんも俺と同じで、俺が黒瀬というのだとは把握していたらしい。


木戸さん、と呼んだ俺を見て、黒瀬君と呼んでくれるようになった。


「うん、……」


本棚から取り出して木戸さんに渡そうとしたけど、大量の本は、今にもその両手から落ちそうで怖い。


「持とうか?」


見かねてそう言ってみると、木戸さんは首を横に振った。


「い、いいよ……! 大丈夫!」


そうは言われても、実際危なっかしいし、足元もふらついているし。


全部ハードカバーで、かなりの厚さと重さがあるから当然なんだけど、心配になる。

……ほんとに大丈夫かなあ。


ちらり、横目で確認すると、案の定、木戸さんは口をきつく結んでいた。


……強行突破しかないか。


仕方なく、半強制的に木戸さんの手から本の山を取る。


慌てて手を伸ばしてくるのを冷静に流した。


「駄目だよ、それ重いのに!」

「気にしない気にしない」


俺は男なので木戸さんよりは力があると思う。


持った本の山は割と重くなかった、というかこれくらい余裕だ。


「重くないよ。大丈夫だから」
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