風薫る
「…………」


木戸さんは無言で納得していないと主張した。


こうなったら最終兵器。


「本、落とすと傷むよ」

「っ」


途端、喉を詰まらせた木戸さんに、渋々ではあるものの、何とか納得してもらうことに成功。


よかった。


「次、何か取るのある?」

「や、大丈夫……あ」


一瞬首を横に振りかけた木戸さんは、はた、とその動きを止めて。


「――っていう本。著者名と出版社名は忘れてしまったんだけれど……」


おずおずと切り出された本の題名を知っていた。

著者名も出版社名も、内容も知っていた。


挿絵が綺麗だった覚えがある。


確か、何年か前にどこかの新人賞の、奨励賞か何かを受賞したと雑誌で見かけて、試し読みをして、衝動買いをした。


あまり有名ではないけど、文章が綺麗で読みやすいのがお気に入りの本だ。


「それなら俺が持ってるけど、貸そうか? その方が借りられる上限から一冊ぶん浮くし」

「え、本当? 借りてもいい?」

「もちろん」

「ありがとう!」


ふわり、あまり嬉しそうに笑うから、思わず本を落としかけてしまって。


だから。
< 17 / 281 >

この作品をシェア

pagetop