風薫る
「他には?」


動揺を隠そうと急いで聞いたら、何だかぶっきらぼうになってしまった。


「ううん! ないよ、大丈夫……!」


木戸さんはぶんぶんぶん、と相変わらず勢いがある首の振り方をした。


「じゃあ、カウンターに行こうか」

「うん。鞄置いてくるね」


待ってて、と言い添えて、木戸さんは少し離れた位置にある一番手近な長机に鞄を置いている。


その間に、俺は抱えていた本の山をカウンターに置いた。


よし、と木戸さんが早足でこちらに駆け寄る。


借りる許可をもらい、ふん、と一度に全てを持とうとしてから数秒で諦め、潔く、持てると判断したらしい半分ほどを持った。


頼んでくれてもいいんだけど、おそらく遠慮しているんだろうなあ、なんて思いつつ、残りをカウンターから持ち上げる。


長机の上の鞄に本を詰めていた木戸さんが、慌ててこちらを振り向いて、手を止めた。


「ごめん、ありがとう」

「いえいえ。どういたしまして」


鞄の側に本を置きながら、近くにあった椅子の背もたれに手をかけ、体重を預ける。


俺は何となく、木戸さんの手元を見ていた。


……それにしても、本当に扱いが丁寧だ。
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