風薫る
背表紙を下に、小口側を上に向けている。


ちりが厚い本なら向きはあまり考えなくてもいいけど、文庫は別だ。

ページがバサバサしている拍子に傷んでしまう。


今回はちりが厚いハードカバーだから向きはあまり考えなくてもいいんだけど、きっとその入れ方がもう習慣になってるんだろう。


本は扱いに気をつけないと、簡単に日焼けしたり傷んだりする。

見開きで上にものをのせたら、すぐ開き癖がつく。


俺は本が傷むのが嫌だった。


読んでいる途中で傷んだ箇所を見つけたら、気になってしまって、ちょっと興醒めだ。


持ち運び中に折れたり破けたりしないように気をつけている。


だから、丁寧な扱いに妙に感心した。今度から参考にしよう。


「ときに、木戸さん」

「うん?」


ぱちぱち、軽いまばたきをしている。


「さっきの本、いつ貸そうか。明日でいい?」


怪訝な顔が、ぱっと明るくなった。


「うん、もちろん!」


……本が、好きなんだなあ。好きなんだろうな。


きらきらした目で何度も大きく頷く木戸さんに、つられて俺まで嬉しくなる。


本好きな人が少ないこの学校で、本好きな木戸さんと会えたことは、とてもすごいことな気がした。
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