風薫る
「……同じ?」


同じって、黒瀬君が?


「うん。いや、なんか照れない?」

「照れます!」


うんうん頷くと、ね、と黒瀬君がお冷やを煽った。


私も結構な速さで飲んでいるのに減りがほとんど変わらないのは、二人して気恥ずかしかったから、らしい。


お水だけでお腹がいっぱいなんだけれど、それも黒瀬君と一緒なんだろうか。


コップ越しに見遣っても、合わないというか合わせられないというか、微妙にどっちつかずでずれる視線。


お互いにお互いの真っ赤な顔を、視界の隅にそうっと寄せた。


「メニュー見た?」

「ううん、まだ」


パラパラめくる黒瀬君に倣って、私も予想よりしっかりした重い表紙を持ち上げる。


両手を添えて開くと、おすすめのパスタの写真が一枚差し込まれていて、とりあえず次をめくるとお肉が明記されている。


お肉、パスタ、丼、パン、サラダ、デザート、飲み物と続き、最後のお酒は飲めないからなしとしても、メニューが豊富だ。


どれにしようかな。洋食にしようかな。


パスタもいいし、グラタンとかドリアとかもいいし、サラダをつけるかも迷うよね。

デザートとドリンクは当然つけるからセットBにするとして。うーん。


唸りつつ、底をつきかけたお冷やを氷をがらんごろん言わせながら傾けると、黒瀬君が微笑みながらこちらを見ている。


なんだろうと勘ぐって、はっとした。


……もしかして、暇、かな。


違うといいなあ、申し訳ないなあ、と恐る恐る聞く。
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