風薫る
「決めた?」

「決めたよ」


わああ、早く決めよう。


若干焦ってめくる手を速めた私をとめるみたいに、黒瀬君がそっと言った。


「急いでないから大丈夫だよ。ゆっくり選んで」

「でも図書館が……」


本来の目的は図書館で、黒瀬君と図書館巡りをするのをものすごく楽しみにしてきた身としては、こんなところで計画を潰すわけにはいかないのである。


黒瀬君にも迷惑をかけてしまう。


弱り切った顔で瞬きした私に朗らかに喉を鳴らして、黒瀬君は提案した。


「図書館は逃げないよ。今日はゆっくりご飯食べてゆっくり見て回って、あんまり回れなかったらまた今度来よう」

「えっ、いいの!?」


黒瀬君と取りつけた約束は今回の一度限りで、今後も来られるとは思っていなかった。


また誘ってもいいとは思っていなかったから、少し前のめりになる。


「え、違うの。俺は木戸さんと図書館の本を読み尽くすつもりだったんだけど……」


目をまん丸にした黒瀬君に、慌てて言い募った。


「違くない、違くないよ! 絶対貸し合いしようね!」


ああ、取り寄せもお願いして、もしできそうだったら借りた後勉強しに帰りに寄ってもいい。


図書室の本は二人とも一通り読み終わってしまいそうだから、そろそろ拠点を移すのもいいかもしれない。
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