風薫る
「おおー、美味しそう!」


このお店は写真が綺麗でいいなあ。

絵より写真の方が実物が分かりやすいし、暗い写真より明るい光が当たっている写真の方がなんだかもっと美味しそうに見えるし、写真が綺麗で美味しそうだと、大抵の場合、実物も美味しい。


「ね。美味しそうだよね」

「うん。でもなんていうか、もっとこう、量重視なのかと思ってた」

「男子だけど、俺はそんなにがっつり食べる方じゃないからね。木戸さんは?」


ちらり、さ迷う視線に大まかな流れを把握したらしい。


「クロワッサンサンドにする?」


迷ってるんだよねと確認されたので、大きく頷いた。


「うん、迷ってる。グラタンも食べたい気分なの」

「へえ、いいね。グラタンって美味しいよね」


グラタンか、と写真が美味しそうなのを確かめて、黒瀬君は素敵な提案をしてくれた。


「半分こしようか」

「ください、ぜひください!」


ふっと笑ったのは、黒瀬君には夏目漱石の『こころ』の一節だとすぐにピンと来たからだろう。


最近『こころ』を現代文の授業で読んだから。
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