風薫る
「私、教室に取りに行った方がいいかな」
「うーん」
取りに来てもらうと助かるんだけど、まだ新学年になって新しい組になったばかりだ。
同じ組の人で固まることが多い中で、別の組の木戸さんに来てもらったら、本の貸し借りだけでも目立つ気がする。
多分、一番目立たないのは図書室だろう。
「いや、放課後ここに来てもらってもいい?」
「分かった。図書室だね」
木戸さんがまた大きく頷く。
動作が大きいのは、木戸さんの癖なのかもしれない。
「ときに、黒瀬君」
ひどく真面目な顔で、さっきの俺みたいなことを言うから、おかしくて笑ってしまった。
「うん、何?」
「黒瀬君はさ」
す、と木戸さんが真っ直ぐにこちらを見上げる。
目がつけまつげに縁取られていないことが、やけに印象的だった。
この学校では珍しい、メイクが施されていないその顔を、西日が柔らかに照らしている。
「名前、何て読むの?」
「……こう、だけど」
やった。当たった。
小さな呟きに眉をひそめると、その先に満面の笑みの、木戸さん。
「黒瀬君のこと、カードで名前だけ知ってて。見かける度にいつもね、素敵な本を読む人だなあって」
「うん」
「ひろ、と、こう、のどっちかなって思ってたの。でも何となく、こうって読む気がしてた」
「っ」
「うーん」
取りに来てもらうと助かるんだけど、まだ新学年になって新しい組になったばかりだ。
同じ組の人で固まることが多い中で、別の組の木戸さんに来てもらったら、本の貸し借りだけでも目立つ気がする。
多分、一番目立たないのは図書室だろう。
「いや、放課後ここに来てもらってもいい?」
「分かった。図書室だね」
木戸さんがまた大きく頷く。
動作が大きいのは、木戸さんの癖なのかもしれない。
「ときに、黒瀬君」
ひどく真面目な顔で、さっきの俺みたいなことを言うから、おかしくて笑ってしまった。
「うん、何?」
「黒瀬君はさ」
す、と木戸さんが真っ直ぐにこちらを見上げる。
目がつけまつげに縁取られていないことが、やけに印象的だった。
この学校では珍しい、メイクが施されていないその顔を、西日が柔らかに照らしている。
「名前、何て読むの?」
「……こう、だけど」
やった。当たった。
小さな呟きに眉をひそめると、その先に満面の笑みの、木戸さん。
「黒瀬君のこと、カードで名前だけ知ってて。見かける度にいつもね、素敵な本を読む人だなあって」
「うん」
「ひろ、と、こう、のどっちかなって思ってたの。でも何となく、こうって読む気がしてた」
「っ」