風薫る
気にしたら怒るからね、と全然怒るようには見えない優しい顔で注意するので、黒瀬君に質問してみた。


「次もこのお店に来てもいい?」

「いいよ。何で?」


あっさり頷いた黒瀬君に努めてさりげなく言う。


「次は私が黒瀬君と半分こしたいから」


私の勝手で黒瀬君優先するの。


黒瀬君が食べたいもの、一皿しっかり食べたいなら小さいデザートでもいい、何か。

黒瀬君が食べたくて、でも一人では少しお高いものを半分こしたい。


「気にしたら怒る?」


いたずらっぽく聞かれたから、にっこり笑って大きく頷く。


「怒るよー!」


満面の笑みの私に黒瀬君が噴き出した。


「木戸さんって怒っても怖くなさそう」

「怖いよ、怒るときは怒るんだよ! 角が見えるよ!」

「ほら怖くない」

「もー! 早く頼もう!」


わたわたと抗議をすればするほどなぜか微笑まれたので、不本意ながらも流しておく。


選ぶのに時間がかかりすぎてお店に入ってから結構経っていた。


促すと、そうだったと今さらに思い出した黒瀬君。


頼むついでにお冷やを足してもらう。
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