風薫る
図書館に足早に入ると、入り口近くに大きな本棚があった。


おすすめ! と踊る掲示を見るに、司書さんおすすめの本を平置きしているコーナーらしい。


へええ、と二人で近寄って、なんとはなしにお互い両端から順に見て——素敵なものを発見した。


え、うわあ、これ……!


もどかしく黒瀬君を呼ぶ。


「くりょせくん!」


……噛んだ。は、恥ずかしい。どうしよう。とりあえず、恥ずかしい……!


真っ赤な私が何か言う前に、黒瀬君が小さく噴いて、笑った。


「うん、何?」


噛んだのは触れないでくれるらしい。優しい。


黒瀬君が流してくれる人でよかった。ありがたく私も流すことにする。


「今月もう書店チェックした?」


多分していないと思う。

黒瀬君はチェックしたら「今日書店見てきたんだけど」って言うし、こんなに素敵なものがあったら見逃さないに決まっているし、これあったよって私に教えてくれるはず。


「まだだよ」

「じゃあきっと分かってくれると思うんだけれど、見て見て」


予想通りの返事に手を引っ張って、見つけたコーナーに急ぐ。


ほら! とお目当てのものを指差すと、途端に笑顔になった。
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