風薫る
「ん? なあに?」


反省しきりで全然頭に入ってこなくて聞き返したのだけれど、何でもないよと済まされてしまった。


あれかな、やっぱり噛んだの面白かったのかな。

くりょせくんだもんね。くりょせくん。


そんな噛み方初めてしたよ。くろせ、なんて全然言いにくくないのに。



……なんか悲しくなってくるから、そう、楽しいことを考えよう。

たとえば、今日それぞれ借りた本をお互い貸し借りするときのこととか。


黒瀬君いつ読み終わるかな。多分帰ってすぐ読むだろうから、明日とか明後日には借りられるかな。


他にもいい本あるといいな。


あっそうだ、図書室で途中の巻だけ紛失してて先に進めてないシリーズ、もしかしたらあったりしないかな……!


楽しいことは考え始めるとどんどん出てくるもので、黒瀬君が素敵な本を見つけて声をかけてくれるまで、緩んだ口元はずっと弧を描いていた。
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