風薫る
溜め息をついてはっとした。


「でもそっか、そんなに広まってるなら黒瀬君困るよね、どうしよう……!」

「え、心配するのそこ?」

「だって、あんまり話しかけられない私はいいけれど、黒瀬君有名なんだよね、黒瀬君の方がきっと大変だよ……!」


以前、黒瀬君は有名だと聞いた。


あのときも今も、実感はうまく湧かない。

でも、おそらく、こういうちょっとした騒ぎが起こるくらい有名で、この学校の皆が何となく名前を知っているくらい顔が広いってことだと思う。


有名人になった人に対して慰めるときに、「しょうがない、まあ有名税と思え」なんて表現が小説で出てきたことがある。


大変だなあと呑気に構えて読んでいたけれど、有名税なんて全然嬉しくない。


大抵渦中の人は諦めていたものだけれど、現実ではそう簡単に諦められないだろう。


友達とかクラスメイトとかから、話のネタに振られちゃうかもしれない。


いちいち否定するのも面倒だろうし、いくら温厚な黒瀬君でもどうにも困ってしまうだろうし、そうしたら責任の一端は私にあるし。


あああ、本当申し訳ないよ……!


どんなに否定しても、二人で一緒に歩いてたってことが重要なら、ただの自己申告に見えちゃうと思う。

どう頑張ったってすぐさま収まる気がしない。


どうしようどうしよう、とうるさい私に、瑞穂が呆れた顔をした。


「黒瀬君なら心配いらないでしょ。むしろあたしはあんたが心配なんだけど」

「え? なんで?」
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