風薫る
「お願いされない限り黒瀬君って呼ぶけれど。でも、もし仮に冗談か何かで名前で呼んだら、黒瀬君も彩香って呼んで相殺してくれるかな」


想像してゆっくり返事をすると、ぴしり、瑞穂が固まった。


ああそう、って頷いたのに何だか疲れている。


「ねえ、彩香、気をつけてね」


瑞穂はほんの少し目を細めて、何事かを思案して、瞳に心配の色をのせた。


「今までの行動を鑑みるに、黒瀬君はあんたに迷惑かけたくないって思ってくれそうだけど……」


途切れた台詞の続きは、不穏なのだと分かっている。ぎゅう、と手を握った。


「聞いたって答えてくれないだろう黒瀬君は諦めちゃって、真相の確認ならあんたに来るね。確実に」

「多分聞いたら答えてくれると思うけれど……」


私が彼女だなんてそんな不名誉極まりない事実無根なこと、否定してくれるに決まっている。


「あたしも、黒瀬君があんたから聞いてる通りなら、答えてくれそうだなって思う」


またもや途切れた台詞の続きは、普段の様子がね、だろうか。


……うーん、そもそも黒瀬君は何でそんなに勘違いされているのか。謎だ。謎すぎる。
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