風薫る
「……黒瀬君、結構笑い上戸だよ」


私の印象では、黒瀬君はよく笑っている。

ふわっと大きく、くすりとおかしげに、優しく微笑んで、楽しそうに声をあげて。


「最初はもちろん敬語だったけれど私もそうだし、今はむしろ敬語じゃなくていいよって言ってくれたし、優しいし、誕生日とかお家のこととか聞いちゃったんだけれど……」


考えてみるだに違う。確かに瑞穂が言う通り、一般見解は私と全然違うらしい。


「だから噂になるんだよ。あの黒瀬君が、ってね。騒がれて黒瀬君は嫌だと思うけど、黒瀬君に嫌がられても騒いじゃうくらいの事件なの、普通は」

「えええ?」

「つまりね」


――あんたが特別だってことよ。


今までのものすごーく長い説明をたった一文にまとめて、怪しげに微笑んだ瑞穂はかっこいい。


そのかっこいい瑞穂によれば、私は特別扱いされているらしい。


でも、もしそれが正しいとして、黒瀬君が私を別枠で扱ってくれる理由が思いつかない。


「な、何でだろう……そっか、本か!」


うんうん唸って何とか一つ捻り出す。


あんまり本の話をできるが人いなくて残念だって言ってたもんね。それだよ。

本の話をしたいから話しかけてくれたんだよ。なるほど、そっか。


自力で答えを見つけた私を瑞穂はなぜだか半眼で見て、


「うん多分そういうところもじゃないの?」


なぜだか、肯定したのに、棒読みした。
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