風薫る
ねえ、と瑞穂が上半身をのり出す。


「黒瀬君のこと、どう思ってんの?」


からかわれそうな感じはしないから、思っている通りに言ってみた。


「いい人だなぁって。本好きだし、優しいし、」

「本と黒瀬君なら?」


聞いたのは瑞穂なのに遮るなんてひどい。話が長くなると思われたのかな……。

ええと、まあいいや。いい人って伝わったら充分だもんね。


本と黒瀬君なら、もちろん。


「黒瀬君」


即答した私と何だか眩しそうに向き合って、瑞穂は奇怪な提案をした。


「それ本人に言ってみたら? 多分、いや絶対喜ぶよ」

「そう?」


喜んでくれるだろうか。勝手に比べられて、怒ってしまわないかな。


訝しむ私に、ほら、と例示。


「だって自分に置き換えたら、誰かや何かより自分を優先してもらえるって嬉しいじゃん」

「そっか、なるほど」


確かにそうだ。黒瀬君に忙しい中会いに来てもらったら、とても嬉しい。


ということは、本より黒瀬君が好きだと言ったら、黒瀬君は嬉しいのだろうか。

私としては、最大級の褒め言葉なんだけれど。


「……言ってみようかな」

「言ってみなよ。きっと喜んでくれるよ」


瑞穂は頼もしく、もう一度断言した。
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