風薫る
「いくらでも……!」


ぶんぶん頷いた。すごい勢いで頷いた。


「全部あげる! 黒瀬君といられるなら全部……!」

「っえ、全部!? ちょ、木戸さん落ち着いて、」

「だって!」


わたわたする黒瀬君の両手を捕まえる。ぎゅーぎゅー両手で握りしめる。


どうしようぼろぼろ涙が出てきた。


「ずっと一緒がいい……!!」

「……え」

「黒瀬君とずっと一緒がいい……!」

「ちょ、木戸さ、」


泣いちゃったのにびっくりしたのか手を離されそうになったので、縋るみたいにぎゅうと握った。


「やだ離さない、……えっと違くて、もちろん離すけれどまだ離したくない」

「……あーもー!」


小さく眉をしかめた黒瀬君に掴んだ手ごと引き寄せられて、ぎゅうと抱き締められた。


ぼふり、顔が黒瀬君に埋まる。


黒瀬君の顎が、熱い吐息とともに肩にのった。


「離さない」


声が近い。


「俺だって、離したくない」


背中に回された手が熱い。


「そうじゃなくて、泣いてるの見られたら嫌かなと思って、涙拭こうかなとか、肩貸そうかなとか思っただけ」


俺ね。


「全部欲しいよ」


あのね。


「木戸さんが、全部全部、欲しいよ」


腕を伸ばす。しがみつくように手を回す。


「私もね」


囁きを返す。


「黒瀬君が、全部全部、欲しいよ」


二人だけしかいないみたいに静かな、図書館の隅で。


しばらくずっと、長い間。速まる呼吸を、お互いの心音を、そっとそっと、聞いていた。
< 234 / 281 >

この作品をシェア

pagetop