風薫る
黒瀬君が穏やかに笑う。


「返品不可だよ。押しかけるよ」

「どんとこいだよ。大歓迎だよ」


私もつられて、穏やかに笑った。


「私だって、返品不可だもん」

「返品なんてしないよ。そんなもったいないこと」

「え」


さらりと言った黒瀬君にびっくりして、身じろぎをすると。


「離すもんか」


ぎゅう、とさらに抱き締められた。


「言っとくけど、俺は本気だからね。前言撤回する気はさらさらないからね」

「びっくりしただけだよ」

「……本当に?」


じとっとした声音に思わず噴く。


「本当に。前言撤回なんてされたら悲しすぎてもっかい泣いちゃいそうです」

「……それはちょっと困る」

「うん。だから、ずっとずっと一緒にいて」

「……うん」


黒瀬君が私の頭ごとかき抱く。


黒瀬君の匂いがする、とちょっと変態なことを思った。


安心する匂いだなあ、とだいぶ呑気なことを思った。
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