風薫る
これから毎日来よう、と相談して、決めて、約束する。


図書館で騒ぐのはご法度なのでもちろん声を潜めていたのだけれど、いくら静かに泣いたって、腫れぼったい目はどうしようもない。


視線をひしひし感じながら、二人でこそこそ早足に出口を出た。


「すごい勢いで泣いたねえ」


隣を歩く黒瀬君から、おかしそうに覗き込まれる。


「俺、木戸さんが泣いてるとこ初めて見た」

「う」


確かにいきなり泣くなんてびっくりするよね。挙動不審の極みだよね、うん。……恥ずかしい。


「ごめんね」


謝った私に、もう少し笑って。


「いいえ。可愛かったし嬉しかったし大丈夫です」

「へ」

「すっごいすっごい可愛かった」

「……え、と」


そこで強調するのは嬉しかったじゃないんだ、と混乱したまま思った。


「という訳で、もっかい抱き締めてもいいですか」

「……人がいないところでなら?」

「おっけー分かった言質は取った、人がいないところね」

「う、うん」


疑問符がついたのは仕方がない。びっくりしたのも仕方がない。


……何かすごい勢いで横道探してるんだけれど、え、い、今!?
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