風薫る
瑞穂と一緒に教室移動し、

瑞穂と一緒にお昼を食べ、

瑞穂と一緒に清掃をし、

瑞穂と一緒にお手洗いに行き、

放課後も瑞穂と一緒に……


「ねえ、瑞穂」

「ん?」

「ん? じゃないよ誤魔化されないんだからね私。今日はいろいろとついてきてくれてるでしょ。嬉しいけれど、さすがに極端すぎると思うよ」


心配してくれているのは分かる。優しいなあ、ありがたいなあとも思う。

でも、そんなに心配することないのに。


「じゃあはっきり言うけど。彩香」


瑞穂は大きくため息を吐いて、ジト目でこちらを見据えた。じとりとうろんげな、それでいて気遣わしげなまなざし。


「あんたね、そんな顔してんじゃないの」

「やだなあ、そんな顔ってどんな、」


黙って手鏡を突き出された。クマのひどい、青い顔があった。


「こんなしけた顔した友達を放っておけって? 何それ馬鹿なの? 冗談でしょ、ないわ」


はん、と鼻で笑った瑞穂が、足音高くこちらに迫って人差し指が突きつけて、睨み据える。


その薄い色をした瞳に、泣きそうな私が映っている。


「いい? あんたはあたしの友達なの。大事な友達なの。そこんとこ分かってないでしょ、彩香」


怒ったような呆れたような、優しい声音だった。


友達。ともだち。瑞穂からの、初めての形容。


「彩香」


もちろん友達だって思っていた。瑞穂もそう思ってくれていると思っていた。


でも、瑞穂はさばさばしている性格で、仲がいいとか仲間だとか大事だとか、そういうことをあまりはっきり言わない。

ましてや友達だなんて、なおさら。


頭が真っ白になって固まったところを、ぎゅっと抱き締められる。


少しだけ不慣れな力加減だった。


ワイシャツに当たって擦れた鼻がツンとしたのは、ぶつかったからばかりでは、なく。


歪む視界をきつく閉じて頭を押しつけた、几帳面にアイロンがかけられたワイシャツから、柔軟剤の甘い香りがほのかにした。
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