風薫る
「あんたを一人になんてしてやんないんだからね」


瑞穂は本気だった。本気で言ってくれていると分かった。


「あんたが馬鹿にされたら、一緒に泣く……のはまあないけど、一緒に怒って、一緒に反論して、一緒に立ち向かう。一緒にいる。隣にいる。近くにいる。いつだって、どんなことだって、あたしを、佐々木瑞穂を巻き込め」


本当は、本を読んで集中して、全てを乗り切ろうとしていた。


突き刺さる視線と囁かれる噂にあんまりにも居心地が悪くて、どうしようもなくて。

大丈夫だとか、また会いたいとか、負けないとか、何度も考えて、何度も不安になって、怖くて。


きっと本を読んでいれば大丈夫って見ないふりをした。

縋るみたいに黒瀬君の名前を呼んだ。

一番お気に入りのお話を読んだ。

そうして昨晩、祈るみたいにこわごわまぶたを閉じた。


でもやっぱり本を読んで全てを乗り切るには無理があると今日分かって、瑞穂がさりげなくガードしてくれていたのは気づいていた。


絶対に一人にならないように、さりげなく、さりげなく、そばでいつもみたいに話をしてくれた。


ちょっとお馬鹿な笑い話とか、なんでもない授業の予習復習とか、元気づけるためにか最近読んでる本の話を振ってくれたのは私にはまあすごく分かりやすかったけれど、周囲が訝しがらないような話題を上手に選んでたくさん振って広げてくれて。


瑞穂はとてもさりげなくやってくれたと思う。おかげで楽しかった。


でも、思わず大丈夫だと強がったのは、それほど庇われる機会が多かったから。迷惑をかけたくないのになって、切なくなったから。


「あたし、あんたを一人になんて、絶対に絶対にしてやらない」

「みず、ほ」

「あたしはね、彩香」


腕の力が強まる。


「のほほーんってしたあんたの能天気な顔が結構好きだし、聞いてると疲れるけど目を輝かせてる図書談義も好きだし、何より、黒瀬君と一緒にいたあんたが一番好きなの」
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