風薫る
「ふざけないで……っ」


大声にしたくなくてとっさに詰めた息に、言葉尻が引っくり返る。


別に、二人っきりだったなら、私には何を言ったっていい。

嫌われるのは仕方ないと思う。嫌いな人に嫌味をぶつけたくなるのだって普通のことだ。


でも、お願いだから、本を大事にしてる人に、あなたの好きな人に、そんな馬鹿なことを言わないで。


苦しかった。悲しかった。私への敵対心から出た言葉にしても、あまりにひどい言い草だと思った。


「好きなら、黒瀬君が好きなんだったら、好きな人の趣味くらい分かるでしょ……!」


くろせくんは、ほんが、すきなのに。


「黒瀬君は本が好きなの……! ほんとにほんとに、本が好きなの……っ」


いつも楽しそうに読書をするのに。

こんな本読んだんだよって、嬉しそうに笑うのに。休み時間を惜しんで読むのに。


黒瀬君が本好きなのは有名だし、図書室に通ってるって知ったからここに来てるんだろうし、知らないはずはない。


少なくとも、黒瀬君は図書室に読書するために来てるんだって、説明していたばかりじゃないか。


それなのに、どうして黒瀬君を否定するようなことを言うんだろう。


どうして本好きを否定するようなことを言うんだろう。
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