風薫る
静かに待ってくれていた黒瀬君が何かを耐えるように口を引き結んで、何だか困った顔をした。

えええ、とは言わないでくれたけれど、黒瀬君じゃなかったら言っていたかもしれないと思うくらい、驚いた顔。


あれかな、何でもいいなんて反応しづらいのかな。


でも本当に、好きな人から――たとえば黒瀬君から言われるなら、言葉になんてこだわらない。本や読書が関連しなくてもいい。


「ええと、ごめんね、一応、思いつかなかったとか、適当に言ってるとかじゃなくって……」

「ああごめん、それはもちろん分かってるけど、何でもいいんだってちょっとびっくりして」


木戸さんに借りた話を鑑みるに、本に関連してる方が嬉しいとか、シンプルなのがいいとかあるのかなーって思ってたから。と、言われたけれど。


「……ええと、その、適当に言われたらもちろん嫌だけれど、好きだって思ってくれるなら、気持ちがあるなら、何でもいいかなって」


だって。


「私のことを好きになってくれただけで充分、わああ幸せだーってなると思うの」


幸せだ。幸せになる。幸せをもらえる。告白してくれたら、それだけで嬉しくなれる。


……ちょっと簡単すぎるかな。でも嬉しいんだ。


告白なんてされたことがなくて、心が浮き立つだろうと分かっている。

初めての好きに、舞い上がるのは分かっている。


本当のことなんだけれど、恥ずかしくて黙り込んだ私に、ふわり、口元をほころばせて。


「そっか」


空気に溶けるみたいに、黒瀬君が優しく笑った。
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