風薫る
「ね、木戸さん。……読んで、くれる?」

「っ」

「……今、読んで欲しいんだ」


嗄れた声が落ちる。


「読むよ。読みたいよ」


どもるみたいに即答すると、ありがとう、と黒瀬君が言った。


震える手で受け取って、真っ先にスピンを探す。


赤茶の細紐を見つけて、そうっとなぞり。おそるおそる、黒瀬君を見上げたら。


耳まで染まった、真っ赤な顔をしていた。


「っ」

「木戸さっ……!」


自分を見るとは思っていなかったらしい。

目が合ってしまって、慌てて伸ばされた大きな手が、赤さを隠すように私の視界を遮って、両手で顔を覆う。


「今真っ赤だから、お願いだから、こっち見ないで……!」


黒瀬君の慌てように、つられてこちらまで真っ赤になった。


だって。

……だって。何が書いてあるか、なんて。


「……は、ずかしいから、早く読んでください……」

「……はい」


揺れる黒瀬君の声に負けないくらい、ぐらぐら揺れる声でなんとか返事をして、そうっと、そうっと、スピンが挟んであるページを開く。


やっぱりそこには、紙が挟んであって。綺麗にハサミで切られたルーズリーフで。


裏返して見えた文字に、固まった。
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