風薫る
『好きです。
一緒に読書がしたいです。』
句読点まで丁寧で。少し右上がりな、見慣れた黒瀬君の、緊張にか珍しくぐらついた、線の細い字。
「っ……」
じわり、視界が滲んだ。
息が詰まる。胸がいっぱいで苦しい。
泣きぬれた顔を上げられないままで、そうっと深呼吸をすると、随分湿った音がした。
……ああ。ああ。どうしよう。
どうしてこう、黒瀬君は。どうして、どうして。どこまで。
……どうして、ほんとうに、こんなに素敵なんだろう。
黒瀬君と一緒に読書をするようになって、大事にしたいお話が増えた。
大事にしたい作者さんが増えた。
周りはみんな、そんなに買うと破産するよ、なんてからかうけど、こんな幸せな破産なら本望だ。望むところだ。
言葉にあふれている。喜びにあふれている。物語があふれている。大好きなものがあふれている。
幸せ。黒瀬君と読書ができたら、幸せになれるんだよ。
たまらない幸福感が、後から後から迫ってくる。
……ああ、好きだなあ。私、黒瀬君が、好きだなあ。
「……ね、木戸さん」
浅い呼吸を繰り返す私に、掠れてもなお柔らかな、優しい声が降る。
「木戸さん宛てだから、悩まないでね」
「……なや、ま、ないよ……っ」
「うん、そっか。そう、だよね。そっか」
そっか。
「……それなら、よかった」
一緒に読書がしたいです。』
句読点まで丁寧で。少し右上がりな、見慣れた黒瀬君の、緊張にか珍しくぐらついた、線の細い字。
「っ……」
じわり、視界が滲んだ。
息が詰まる。胸がいっぱいで苦しい。
泣きぬれた顔を上げられないままで、そうっと深呼吸をすると、随分湿った音がした。
……ああ。ああ。どうしよう。
どうしてこう、黒瀬君は。どうして、どうして。どこまで。
……どうして、ほんとうに、こんなに素敵なんだろう。
黒瀬君と一緒に読書をするようになって、大事にしたいお話が増えた。
大事にしたい作者さんが増えた。
周りはみんな、そんなに買うと破産するよ、なんてからかうけど、こんな幸せな破産なら本望だ。望むところだ。
言葉にあふれている。喜びにあふれている。物語があふれている。大好きなものがあふれている。
幸せ。黒瀬君と読書ができたら、幸せになれるんだよ。
たまらない幸福感が、後から後から迫ってくる。
……ああ、好きだなあ。私、黒瀬君が、好きだなあ。
「……ね、木戸さん」
浅い呼吸を繰り返す私に、掠れてもなお柔らかな、優しい声が降る。
「木戸さん宛てだから、悩まないでね」
「……なや、ま、ないよ……っ」
「うん、そっか。そう、だよね。そっか」
そっか。
「……それなら、よかった」