風薫る
黒瀬君が笑った気配がした。


それだけ。それだけなんだけれど、心臓が跳ねる。

全身が心臓になったみたいに、熱くて熱くて、ひどく、うるさい。


「木戸さん」


優しい呼び声に、顔を上げれば。


「俺、木戸さんが好きです」


やっぱり真っ赤な黒瀬君は、真っ直ぐに私を見ていた。


「一緒に読書するのが好きです。

新刊とか面白い本とかに、目が輝くところが好きです。

本を痛めないように、できるだけカバーをかけて読むようにしているところが好きです。

しおりが金属じゃなくて、クリップ形でもなくて、絶対に長方形の紙なところが好きです。

選んでくれる本が好きです。

俺が好きな作者さんを覚えていてくれたところが好きです。

木戸さんの考え方が好きです。

ありがとうとか、好きとか、素敵とか、大好きとか、何だって、たくさんたくさんそう言って笑ってくれるところが好きです。

いつも、また明日ねって言ってくれるところが好きです。

木戸さんが選ぶ優しい言葉が好きです。


……俺は。俺は」


早口にこぼれた言葉を飲み込んで、一度、唇を結ぶ。


「俺は、本が好きな木戸さんが、好きです」
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