風薫る
仕草の端々に見え隠れする少年のような活発さは、瑞穂の長所だ。


「間に合ってよかったね」

「ほんとだよ……」


黒板の上の壁に設置された時計を振り返り、ぎりぎりの時刻に、瑞穂が溜め息を吐いた。


私たちの担任の先生は小原先生という。


生徒からの人気が高い男の先生なんだけれど、熱血でお説教が長いことでも有名で。


小原先生は絶対に怒らせてはならない、それはこのクラスの暗黙の了解になっている。


授業は分かりやすくて面白いのにもったいない、という生徒たちの嘆きがそこかしこで聞こえる、不思議な先生なのだ。


「遅刻したらどうしようかと思った……」


瑞穂がやや大げさに身震いをした。


芝居がかったそれが意外とおかしい。


「あのお説教を食らうのはちょっと嫌だよね」

「……う゛」


自分が食らったところを想像したらしい瑞穂が、唸りながら心底嫌そうに盛大に顔をしかめた。


その顔の歪みように、思わず小さく噴き出してしまう。


「他人事だと思ってるでしょ」

「ごめんごめん」


ふて腐れた瑞穂が非難めいた視線をこちらに寄越した。

けれど、ふてた割にさらりと話題転換する。


「そういえば、今日も図書室行くの?」
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