風薫る
変な方向に走ったのを修正して一息吐いたところで、黒瀬君がふと思いついたらしい。


「そういえば、ハロウィンって霊が帰ってくる日だよ、確か」


窓からやって来る風で熱は冷めていた。


「そうなの?」


意外な事実に瞬きをする。


てっきりお菓子をもらえるお祭りだとばっかり思ってたよ。

…………いや、うん、何らかの理由があるのは知ってたんだけれど。


だったら和洋どうこうなんて言わないで、黒瀬君のお家みたいに、ご先祖様の罰が当たるって言えばよかったのに。

その方がまだしもマシだ。


恨みは深いのである。


早速今日の夜にでも言おう、と目を輝かせた私に不安になったのか、黒瀬君は辞書を持ってきて調べ始めた。


ここで辞書を使うところが本好きたる所以で、同時に変人扱いされても反論できない所以でもある。


書籍は情報が確実だけれど、インターネットではそうでないものもある、というのが主な理由かもしれないけれど。


「……あった」

「えっ」


引くのが速い。

五秒もかかったかどうか、という速さでさっさと引き終わってしまった。


「どこ?」

「ほら、これ」


深い赤に、少しだけ黒か紫を混ぜたような赤の装丁の辞書を一緒に覗き込む。


とても厚いそれの、千百六十ページなんて普通は考えられないページの右上から八行目。


長い指先をたどると、ハロウィーン、の六文字を見つけた。
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