風薫る
「ハードカバーだと嬉しいの?」


天真爛漫な笑顔で、もちろん、と同意する木戸さん。


「たくさん読めて幸せだから」

「そうかなあ」


本当に幸せそうに、何のてらいもなくそんなことを言うから、むしろこちらが照れる。


「何を言うか黒瀬殿」


拗ねて反論した口調が時代モノだ。


木戸さん語は大抵面白い。


「うん、気持ちは分かるよ。文字が小さいと特にね。もう嬉しいよね」


分かるけど、俺にはそう率直に言える素直さがないだけだ。


いじけたのを直してもらおうと同意すると、そうなのそうなの、と早口になっている。


「木戸さんって素直だよね」


しみじみ言えば、この台詞はお気に召さなかったようで、十面相をして、最終的には眉をひそめた。


「……それは褒めてるの、貶してるの」

「もちろん褒めてるんだよ。一緒に話してて何か安心する。木戸さん、本当いいなって」


隣にいて疲れないこと。


高校生にとって、意外と叶わないくせに重要度の高い命題なのだ。
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